茶楽音人さんから長期貸出いただいている「Donguri-鐘」、そして「Donguri-楽 濃茶」を手持ちのイヤフォン2つと交えて比較試聴してみました。
なお再生環境は色々考えましたが、SONYのCDプレーヤー「CDP-557ESD」のヘッドフォン端子を使うことにしました。
視聴用のCDは自分用に作成してある自作のオーディオチェックCDを用いています。
比較対象としたイヤフォンは全部で以下の4モデルです。
・SHURE SE215(ACOUSTIC REVIVE REC-130SH-Rでリケーブル済)
・ortofon e-Q5(SpinFit装着)
・茶楽音人 Donguri-鐘(Comply使用)
・茶楽音人 Donguri-楽 濃茶(Comply使用)
手持ちの2モデルはリケーブルやイヤーチップでチューンナップされていて、やや公平ではないですけど、DonguriもSpinFitを試した上で最終的にComplyを選びました。
なお両者ともエージングは十分に行っています。
さて、まずはSHURE SE215から聴いていきます。
全体的には内向的ですが、モニターっぽい全体的なまとまりを感じるもので、リケーブルにより、キラキラさとしっとり感のバランスが引き出されています。
ドライな傾向はあるので、女性ボーカルの場合はややカサつきを感じることもありますが、明るさよりも深さ優先で、うまくハマると心の奥に入ってくるような描写を得られます。
ピアノについてはリケーブルのおかげもあって十分な透明感を持っており、濁りはありませんが、密閉感の高いカナルゆえに、空間的な広がりはやや薄い傾向です。
チェロはそこそこ実体感があり、ちょうど隣のモニタールームでイヤホンをして聴いてるような印象です。
低域は膨らまず、ゆったりと聴かせてくれるので、リラックスした気分を味わえます。
全般にはオーディオ的な表現をしてくれますが、あまりレンジを強調せず、バランスを意識したまとまり方です。
お次はSpinFitを装着したortofon e-Q5です。
SE215から切り替えると、まず高域がキツいのを痛感しますし、シングルBAはやはり低域不足だなと感じます。
ただ音圧自体は高めで、SE215よりはかなり能率は良いようです。
ギターの弦の響きは良いのですが、いかんせん低域は足りないため、少々再現性に不満を感じる部分があります。
ちょっと語弊がありそうですが、高域に関してもエージング不足の鐘を聴いている気分で、キツさを感じる場面が多々あったのはSpinFitによる傾向も多少ありそうです。
ピアノやチェロに関しても高域に艶があり、弦の音にリアルさを感じますが、感想としてはギターと同様です。
反面、女性ボーカルは広がりと実体感のバランスも良く、このあたりの帯域からはBAユニットの透明感が活きているようですけれど、サ行はややキツめです。
実はCDP-557ESDのヘッドフォン出力もこういう音傾向があることは以前から感じていて、その点ではe-Q5のほうがSE215よりもイヤホンの色は薄いのかもしれません。
ライブレコーディングの音源ではしっかり空気感は出ていて、モニターというよりもマスタリング用という印象です。
しかしやはりどのジャンルでも低域不足が致命的で、全体的には薄い印象を与えてしまうのが残念で、これで低域さえあれば、かなり良い線を行きそうなのですけどね。
さて、ここで「Donguri-鐘」の登場です。
まず、能率はSE215とe-Q5の中間でややSE215寄りです。
e-Q5から切り替えるとさきほどとは全く正反対で、低域の厚さ、熱さを感じます。
ライブのノリと音場の広がりが心地よいんですよね。
女性ボーカルは十分な艶があり、エージングも進んだおかげで、いわゆるサ行の刺さりはあまり強く感じないようになりました。
ただ、それよりもう少し上にピークがある印象はまだ残っています。
ピアノの音源で響きが乗りすぎるように感じた場面がありましたが、どうやらこれは音源そのものの問題が表面化しているようで、意外とモニター的な要素も兼ね備えています。
そういえば、iPhoneや音源等のノイズにも敏感で、細かなところまでしっかり聴き取れるところも体感していました。
ただ、モニターといっても生声そのものを感じさせる、というよりも「マイク越しの生々しさ」のような、音場感と共存したバランスを感じさせます。
反面、チェロはややボディの響きが過多で、なぜか木質的な響きが乗る印象です。
もしかするとハウジング内部の制振構造と関係があるのかもしれません。
しかし、そんな細かな欠点を引っ張りだして聴く以前に、音楽に浸れる魅力があり、その明るい音色が魅力です。
全般にはマルチマイク過ぎない音源のほうが相性が良いように感じました。
さきほども挙げたとおり、モニター的要素もありますが、SE215との大きな違いは明るい音色です。
そこがSHUREとの大きな違いでして、音楽の楽しさを味わう上では非常に良好ですが、寝る前などリラックスした気分になりたい場合だと、少々元気に感じるケースもありました。
この辺りになるともう好みの問題ですし、音場表現など他では代えがたい魅力のほうが上回るケースのほうがほとんどかと思います。
そして最後に「Donguri-楽 濃茶」を聴いてみます。
鐘と聴き比べてみると、実際の低域は薄く、その分、中高域の量感が目立ち、軽いドンシャリ傾向で、喩えてみると10cmくらいつま先だったような感覚です。
ボーカルでは一転して、しっとりとしたもので、鐘のような中高域の刺激感が少ないから、不思議なものです。
この辺りの音傾向は意外とe-Q5に似ていて、あれの低域をしっかり厚くしたような印象です。
ただし、ピアノの響きは鐘に近く、これはDonguri形状による空間の広がりが活きています。
また、完全に特定アーティストになってしまいますが、川江美奈子さんの楽曲と相性がとても良いんですよね。
全般にピアノとボーカルのシンプルなレコーディングを得意とするということのようで、濃茶を紗羅が愛用しているのも分かる気がします。
他のジャンルにおいても、楽しさと穏やかさのバランスが良いのが特徴的でした。
チェロもホンモノとはやや違いますが、それっぽい雰囲気を出していて、ここは鐘とはハウジング素材の違いが出ているようです。
個人的には、意外とプラスティックのDonguriも捨てがたい魅力ではないかなと感じました。
ライブレコーディングの音源では穏やかさが勝る傾向で、ちょうど他のイヤフォンの良いところ取りして程よくブレンドしたみたいで、まとまり具合でいうなら、濃茶が秀逸でした。
最後に陳腐な喩えで申し訳ないのですが、4モデルを比較試聴してみた感想をコーヒーに喩えるとすれば、SE215は玄人志向で「喫茶店のレギュラーコーヒー」、e-Q5はPURE志向で「コーヒーマニアの自家焙煎」かなと。
対して、Donguri-鐘はHi-fi志向で「産地にこだわった深煎り」、そしてDonguri-楽 濃茶はバランス志向で「美味しいブレンドコーヒー」といった具合です。
以前も書いたとおり、Donguriはその音場が独特な世界観を持っていますので、できれば試聴をオススメしたいところですが、全般には音楽の楽しさをしっかり表現してくれるイヤフォンだと思います。
機材好きよりもむしろ音楽そのものを愛するファンの方に使ってもらいたいイヤフォンですね。
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