MacBSの日常生活的日記

KRELL KSA-100

KRELLのA級パワーアンプ「KSA-100」を導入してみました。

唐突な追加のような感じですが、DENONのCDプレーヤー群を導入したあたりから少しずつ脱アキュフェーズを目指していて、今回もその一環ではあります。
別にAccuphaseが嫌いになったというわけではなく、耐久性の面ではまだ安心感がありますし、むしろそれらが揃ったからこそ冒険もできるというものです。

前置きはこのくらいにして、KSA-100は1980年の発売で、ちょうど私がオーディオを始めた頃の機種です。
当時は高嶺の花過ぎて店頭で聴いたくらいですが、たしか定番のアポジーやMcIntoshのXRTシリーズあたりで試聴した記憶があります。
言わずと知れたDan D’agostino氏の手掛けた名機で、クレルの最初のモデルでもあります。

今回のはまず弟が店頭で見つけてくれて、EIコアトランスの初期モデルであること、そしてそれなりに整備済みであることを確認してくれたので、安心して入手することができました。
この頃のKRELLは時期等によるバージョン違いがかなり色々あるらしく、今回のは150番台後半ですのでかなり初期のものだと思われます。
製造番号が150番台前半だとフロントパネルの角が四角いのを見かけたので、最も初期のものではないですけどね。

中のトランスやコンデンサ、トランジスタなどもそれぞれに異なるらしく、今回のものはMalloryのコンデンサ40,000μFが4本、トランジスタはなぜか丸K印の謎のメタルキャンが全て使われています。

パワートランジスタはNECの2SB600/2SD555が付いているという情報がありましたので、そこから交換されたのでしょうか。
ちなみにKSA-100 mk2ではモトローラの特注品に変更になっていて、さらにトロイダルトランスやドライバ段のFET採用、保護回路の追加などの変更がなされています。
製品の信頼性は向上していると思われますが、こと音質面では初期のものの評価が高いみたいです。
保護回路がほとんどなく、ヒューズ頼みなのはなかなか怖いところはありますけどね。
なおDCオフセットだけは事前に確認したところ、電源投入直後で左右とも9mV程度と良好そうですし、残留ノイズもP-550より少ないくらいです。

能書きはともかく、さきほどのメタルキャントランジスタ4パラで純A級100W、消費電力も常時610Wという大物です。
重さの35kgはP-550(33kg)やP-600(38.3kg)で慣れていますし、前後にハンドルがあるので意外と扱いやすいですが、W483xH226xD612mmという大きさはなかなかデカいです。

まずはKLH4につないでテスト運用してみました。
保護回路がないので怖かったのもありますが、電源投入時のノイズは思ったより少なめで安心しました。
電源をオフにしてもしばらくは鳴り続けるあたりはLINN LK140を思い出しました。
ファンによる空冷を採用していて、ちょっとした空気清浄機やエアコンくらいの結構な音量ですが、パワーブロックの温度を75度~80度に保つ仕様ですから仕方ないところでしょう。

KLH4ですら第一声から余裕のあるサウンドを叩き出してくれて、当時試聴した記憶がうっすらと蘇ります。
弦の艶や熱量がすごく、ジャズ向きだと思っていましたが、クラシックでもライブ感がしっかりした音源なら全く問題ないどころか、むしろとても相性が良いようです。
低域は適度にふくよかではありますが、そこまで甘過ぎず、ピアノの打弦にしっかりした重さが感じられるのが好印象です。
総じて今まで使ってきたアンプの良いところ取りのような印象があり、A級アンプ独特の温度感と歪みのなさを保ちつつ、大出力の瞬発力、駆動力、その上で繊細な音楽的表現力も持ち合わせています。

そこで本格的にB&W Matrix 802 S2に接続変更しました。
これまでのP-550とほぼ同じケーブル類ですが、入力だけXLRがなくてRCAのみなので、ここは一旦、長尺の安いケーブルにしてあります。
こちらも第一声、ある意味気負った感覚が一切なく、それでいて場の空気を熱量を持って生の緊張感とリラックス感の双方を再現してくれます。
楽器それぞれがとても生々しく、音の消え際がとても素晴らしいのが印象的です。
余韻が残り過ぎず、しかも美しいためか、弦楽器のライブ感と音色の自然さがこれまでと段違いに感じられます。
一言で言えば潤いのある音とでも言えるのでしょうが、試聴していてもあまり細部に耳が行くことなく、とにかく通しで音楽を楽しんでしまいます。

ウォームアップにはそれなりに時間がかかるようで、マニュアルにも15分という記載があります。
実際には最低でも10分、本来は30分くらいはウォームアップしたい感じで、そこからより透明感とキレが良くなっていきます。

これまでのAccuphase P-550でたびたび感じられたギスギス感が皆無になりました。
このアンプもその前に使っていたA-45と比べてもまだまだ現代的なアンプではないですけれども、それでも光沢ありすぎなデジタルプリントから銀塩写真になったようなイメージの変化がありました。
KSA-100のほうがむしろ現代的なサウンドとは趣を異にするものなのでしょうが、やはり物理的投入量に伴うものなのか、エネルギー感がハンパないです。
喩えたほうがかえって分かりづらいかもしれませんが、カセットテープとオープンリール、35mmフィルムと中判フィルムのような土俵の違いすら感じてしまいます。

とりわけ、フルオーケストラでは規模感がダントツ違っています。
低音がよりしっかり出ているとかもあるのでしょうけれど、そういうレベルではなく、物理的パワーをもってフルサイズで再現してくるような印象です。
ただ迫力で押してくるだけでなく、オーケストラ一人一人がその場に浮き立つように再現されてきて、楽器が音楽的な範囲内で混沌としすぎず、かといって分析的に下手に高分解能過ぎないのも好印象です。

その後はもういろんなジャンルのディスクをひたすら聴き直しています。
ボーカルもとても生々しく、位相が乱れていないからか、伴奏の強弱を伴っても一向にブレがありません。
ジャズやフュージョンでは勝手に身体がリズムを刻んでしまうあたり、まさに初期クレルの評判通りです。
アキュフェーズの時はジャズはどうしても解析的になってしまい、swing感がいまひとつだったのです。
これはあくまでも推測に過ぎませんが、近年のオペアンプ多用も一因なのかもしれません。
そうした講釈は無視するにしても、とにかくライブの熱量再現が凄まじく、ちょっと喩えが過ぎるかもしれませんが、アンプというより動力源のようです。
分かりやすく言うとすれば、肺活量が大きくなったような感覚で、ffへの瞬発力がすごく、それが持続して息継ぎがないような感じがします。

レコードでは最初、低域の緩さが少し感じられたのですが、それはむしろカートリッジのウォーミングアップに起因するものだったのに気づきました。
そういう他のオーディオ的な要素にも意外と敏感で、決して音楽的にすることを意識して作り込まれた音ではなく、ハイファイ志向もしっかりあります。
ハイスピードな楽曲よりもスケール感のあるもののほうが合いそうではありますが、音が絡みつかず、しっかり楽器が分離していて、しかも(たとえ電子楽器であっても)オーディオにありがちな人工的な音色がしないのがこれまでとの最も大きな変化でしょう。
これまでだと他の楽器と重なると微妙に抜けが悪くなったり、音色が人工的になり、定位があやふやになることがあったのですが、それが皆無になり、常に堂々と骨太にそこに存在するようになりました。

逆に高音質だと思っていた音源がそれほどでもなかったりすることはあって、全体的には演奏の質が高いものやライブ感の強い音源のほうが引き立つ傾向がありそうです。
ピアノも実体のサイズがしっかり見えるようになり、弦の張りが強くなったような印象を受けます。
パルシブさが強烈になりましたが、高域がキツいのとはまた違うのですよね。
むしろKSA-100をじっくり聴いたことで、アキュフェーズが良く「スカキン」などと言われるのも納得した部分があったりしました。

いろいろ褒めちぎっていますが、空冷ファンのノイズとか、ハンパない放熱など、課題もないわけではありません。
ただ、そうしたマイナス面をさておいても愛したくなる魅力を持ったパワーアンプだなというのが率直な感想です。

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