• 051月

    先日入手したES9018 DUAL MONO DACはオペアンプがソケット式になっているので、いくつかオペアンプを調達して交換してみることにしました。

    交換可能なのは5個で、ES9018に近いところの2個がおそらくI/V変換、出力側左右のはフィルタ+バッファ(?)、その間のひとつのは差動合成ではないかと思われます。
    元々ノンサポートの機種ですから、サービスマニュアルなんてものがあるわけもなく、全部推測&自己責任での対応となります。

    最初に交換しようと考えたのは、類似モデルでI/V変換のオペアンプにLME49990を使っているものがあるらしく、それだと電流の定格が足りてなくて歪みが増えてしまう、という記事を拝見したからです。
    ただ実際にはOPA1612をDIP変換したものが装着されていて、これなら55mAなので一応足りているとは思われます。
    ちなみにOPA1612はAccuphase DC-901のフィルタ部でも使われているものです。

    まず調達したのはMUSES8920で、これは100mAまでいけるというのが決め手で選びました。
    あと、JFETのほうがI/V変換向きらしいので8820よりこちらが良いかなという素人考えもありました。
    交換してみると、音が澄んで静寂感が向上したような印象で、ffの歪みもこころなしか少し減った気がします。

    それならばと調子にのって手持ちのオペアンプで対応できる差動合成をTL072CPからLME49860NAにしてみました。
    ここも素人考えでスルーレートが高いバイポーラが良いかなという判断でのチョイスです。
    こちらは予想とはやや違って穏やかな方向への変化で、クセが少なくリラックスして聴ける印象です。
    ただ、高域寄りのノイズがやや増えた気もしますし、定位が少し不安定な感じもありました。
    定位に関してはフィルタ部のOPA1612の接触不良が原因だった可能性も高いですが、ひとまずTL072CPに戻しました。
    TL072CPは差動合成に関しては非常にオーソドックスな選択肢ですし。

    その後、shigechan氏よりMUSES01とLT1364CN8、MUSES8820などを譲っていただきましたので、次はフィルタ部をMUSES01に。
    いかにもオーディオ的な上品な音になって、やはり価格だけのことはあるなと。
    尖りはないのですが、かといってまろやかでもなく、小音量でもバランスが崩れなくなったりと良く練り込まれているように感じられます。
    その分、ややオーディオ的外連味は加わったとも言えそうですが、高域はそこまで欲張らず上品ですし、ヴァイオリンの音色は細くなり過ぎず、自然な艶が出てきました。
    微妙にR加工、面取りされた感があって、かなりMUSES01の支配感は強そうではあります。

    さらにI/V変換をMUSES8920からLT1364CN8にしてみました。
    スルーレートの1000V/μsもさることながら、セトリングタイムが50nsというのも特にハイレゾを扱う上では良さげだろうなと。
    こちらはまず定位の乱れがより少なくなったようで、それは左右のオペアンプのバラつきにもよるのかもしれません。
    また、楽器の音色にキツさが減って、余韻は僅かにドライな感じもありますが、全体としては暖色系に振れて音楽的な描写が得意になった気がします。
    全体としてはクセが少なく外連味は減って音源に忠実な印象なのはMUSES成分が減ったからかもしれません。

    当初のOPA1612の方向性のまま性能向上したイメージなので、こちらのほうが好みのようです。
    重心がやや低域寄りになって、ハイスピード過ぎないのも好印象です。
    生々しいという評価も目にしたが、まさにその通りだと感じます。

    ひとまずここまでで一区切りとし、以下のオペアンプが採用となりました。(上の写真とやや異なりますが。)

    ・I/V変換 : LT1364CN8 (オリジナル:OPA1612)
    ・フィルタ部 : MUSES01 (オリジナル:OPA1612)
    ・差動合成 : TL072CP (オリジナル: TL072CP)

    そうこうしているうちに大物のオペアンプを手に入れることになるわけですが、それはまた後日、別エントリーでということで。

    Filed under: Audio
    2022/01/05 12:00 pm | ES9018 DUAL MONO DACのオペアンプ交換 はコメントを受け付けていません
  • 041月

    Master&DynamicのBluetoothヘッドホン「MW50」には元々オンイヤータイプのイヤーパッドが付いていますが、MW50+で追加されたオーバーイヤーパッドを追加で購入しました。

    以前から入手したいなぁと思っていたのですが、完実さんの直営オンラインストアでしか購入できないので少し躊躇していました。
    そうこうしているうちにブラウンのほうは在庫切れになったのと、DALI IO6(の返品したほうでないやつ)がやや不安定でピンチ・ヒッターの準備を整えておこうかなと導入したい次第です。

    元のドライバやハウジングはオンイヤーで設計されたままですから、パッドだけオーバーイヤーになってもそんなに変化はないかなと思いつつ、装着感が変わるだけでも良いかなと。
    実際はそこそこ音傾向も変わって、むしろやや硬めで高域寄りのバランスになった印象はあります。
    ドライバと耳の間の部分に関してみれば、布1枚だけになっていますから、ダイレクト感は高まったのかもしれません。

    装着感はB&W P7 Wirelessにやや近い印象でしょうか。
    オーバーイヤーといっても少し小さめの感じなので、耳の形との相性はあるかも。

    もちろん気軽に元のイヤーパッドにも戻せますし、入手できるうちに買っておいて良かったなと思っています。

    Filed under: Audio
    2022/01/04 3:00 pm | Master&Dynamic MW50にオーバーイヤーパッド はコメントを受け付けていません
  • 2912月

    TAGO STUDIOのヘッドホン用ケーブル「T3-CB21」を追加してみました。

    実はちょっと勘違いしていてヘッドホン側が2.5mmかと思っていたのですが、実際には3.5mmでした。
    2.5mmだったらHIFIMAN Edition Xにと考えていたんですけど、今回は同じHIFIMANのHE400iに。

    音傾向はフラットな印象で、かといって生真面目になり過ぎず、ヘッドホンの素性を活かす雰囲気のようです。
    そもそもHIFIMANの付属ケーブルはややクセが強い傾向があると思うので、それが普通になっただけとも言えますけどね。

    変更予定だったEdition Xとはかなりランクが異なるHE400iですが、比べてみるとやはりEdition Xのほうが空間は広いし鮮度もあります。
    楽器の音色もしっかりしていて、とりわけ低域の自然な伸びはやはりヘッドホン自体の格の違いがあります。
    とりわけ最低域だけはユニット自体の違いも大きくて勝ち目はありませんが、程よい穏やかさと音像のシャープさがあって、かなりケーブルで底上げできた印象はあります。

    HIFIMAN Crystalline Silver Cable−6.35mm Plugはヘッドホン側を3.5mmに変更してますので、これとケーブルどうしの比較をしてみますと、Crystalline Silver Cableは空間の広がりがあってEdition Xと似た雰囲気になり、ややリスニング寄りなバランスです。
    余韻が強調され、ダンピングファクターが下がったような感覚もあります。

    そこでT3-CB21に戻してみますと、低域はやはり少し弱くなりますが、中域がしっかりして主旋律が追いやすいです。
    中高域がやや華やかで、かなりブライトな印象があり、モニター的で生真面目なのはやはり国産っぽいところでしょうか。
    また音圧も上がるので、ケーブルによるロスも少ないのではないかと思われます。

    HE400シリーズだと価格的に安いこともあってケーブルを交換するメリットはそこまで大きくない気もしますが、取り回しも良いですし、もう少し素直な音質にしたい場合には良い選択肢かと感じました。

    Filed under: Audio
    2021/12/29 12:00 pm | TAGO STUDIO T3-CB21 はコメントを受け付けていません
  • 2812月

    音はもう文句なしに抜群のクレルのパワーアンプ「KSA-100」ですが、やはり2発の冷却ファンは結構うるさいという課題が。

    本体上部のスリットのすぐ上でiPhoneアプリで計測してみますと、パワーアンプ電源オン前と比べて17dBほど騒音が増加します。
    dB-Cで計測しているのでファンの定格でのdB-Aより高めに出る傾向があるとは思いますが、できれば数dBくらいに抑えたいところです。
    使用されているのは120mm、高さ38mmのACファンで、この個体ではSHICOH 1238というモデルが装着されていました。

    SICOH自体、2012年に倒産してしまっていますし、115VACで0.21Aとかなり大きなものが付いていますが、調べたところだとバージョン違いがたくさんあるものの、元々はDayton 4C548という8W級のものが付いていた、という情報を見かけました。
    スペック的には音圧レベルは48dB、回転数は2900rpmですが、115V前提なので100Vで駆動してどうなっているかはちょっと分かりづらいです。

    まずはこれを分解してグリスアップしてみる、という手を取ってみました。
    ファンの取り外しですが、ナットが7/64というインチ規格のものになっているので、まずはそこから調達です。
    かなり取り外しはしづらく、本来ならアンプユニットごと筐体から取り出してやったほうが良いのかも。

    グリスについては、モリブデンとシリコンのどちらにするか迷いましたが、信越化学のシリコングリスG30Mとしました。
    使用温度範囲が-60〜180℃ですから、高温タイプでなくても大丈夫だろうというのと、内部の素材が良く分からないのでプラスチックでも大丈夫なシリコンにしたわけです。
    ただ分解した感じだと元はモリブデングリスっぽかったですが。

    グリスアップ後、同様にiPhoneアプリでノイズ計測してみると5dBくらいに大幅低減しました。
    ただ、放熱板は以前よりかなり熱くなっていて、どうも回転数が遅くなり過ぎているような気もします。
    グリスの量はかなり少なめにしたつもりですし、何度か量を調整したりもしましたが、パワートランジスタの劣化はやはり温度が大きく影響するはずですし、古いファンで頑張れるのも限界があるだろうということでSan Ace 120の13W級の「109S013UL」を新たに調達しました。

    ソケットが3端子だったのがやや想定外でしたけども、なんとかそのままのL字コネクタで装着できました。
    このファンは1800rpmで音圧レベルも30dBとなっていますし、実際に交換された方の情報も見かけたので大丈夫でしょう。

    ひとまず片方だけ交換して試してみると、だいぶ風量は強くなって冷却性能はグリスアップ前以上に向上しているようです。
    ノイズについてはアンプの電源投入前と比べて14dBほどと、グリスアップ前から3dBほどしか下がっていません。
    そこはやや残念な結果ですけれども、冬でこの状態ですと夏はかなり心配ですし、冷却性能が低下したことでアンプ自体が壊れるリスクが高まっては元も子もないので、新しいファンでいくことにします。

    古いファンは保管しておけば、新しいファンには落ち着いたら静音化対策で手もいれやすいですし、そこはのんびりやっていこうと思っています。

    Filed under: Audio
    2021/12/28 12:00 pm | KRELL KSA-100のファン対策 はコメントを受け付けていません
  • 2612月

    最近のDACチップを使ったD/Aコンバーターを試してみるべく、ES9018 DUAL MONO DACを導入してみました。

    おそらくhtpc.jpで扱っていたv2と思われるもので、USB-DDCは非搭載でデジタルボリュームなどもありませんが、ES9018をモノラルモードで使ってあるということですので、とりあえず最近の潮流を掴むには十分かなと。
    当初はもうちょっといろんな候補を探していたのですが、そこそこの金額でも廉価なほうは中華主体になりますし、ちょっと良いものをとAccuphase DC-37を眺めてみると結局、ES9018なのでまずはコレでお試ししてみようかということになった次第です。

    とにかく分厚いアルミ無垢のケースが印象的ですが、基板がかなりそっくりな機種でオペアンプにLME49990が使われているものがあるらしく、それだとES9018のモノラルモードには負荷が高すぎるらしいので、事前にそこだけオペアンプを調達しておきました。
    ただ実際の機種はそれと同じではないので、IV変換とフィルタ部(バッファかも!?)にはOPA1612のDIP変換したものが、差動合成と思われる部分にはTL072CPが使用されていたので、まずはそのまま使ってみます。
    ちなみにDC-901もフィルタ部にはOPA1612が使用されているそうです。

    まずは動作確認で光でSCD-777ESと、同軸でFOSTEX HP-A8とつないでみました。
    FOSTEXもだいぶ良くなりますが、意外とCDが変化が大きく、より新しい好録音のものが活きてくる印象です。
    また、96kHzハイレゾとCD音源の違いも顕著に差が出てきて、やはり新しいDACチップらしくハイレゾの良さが活きてきたなというのが第一印象でした。

    機能は少なく、入力切替とミュート、フィルタ変更くらいで、フィルタについてはスローロールオフのほうが好みかなということで当面こっちで聴いていきます。
    DP-77単体とDAC経由をCD音源で比較してみますと、DP-77単体のほうも解像度は思ったより高めですが、やや硬くて音像が細く、ギスギスした感じがあります。
    DAC経由は意外としっとり系で楽器の音色が自然な気がしました。

    DP-77ではなくSCD-777ESをトランスポートにすると、そちらのほうがより滑らかな印象でハープの音色がさらに自然になります。
    トランスポートでの違いはそこまで大きいわけではありませんけど、わざわざDACを経由するならDP-77の寿命を延ばす意味でも別の機種をトランスポート代わりにするのが良いでしょう。

    HP-A8のほうはどうも本領発揮とはならず、稀に高域にノイズが乗ったり、ロックが途切れるケースがありました。
    同軸ケーブルを疑ったり、DAC本体を疑ったりしたのですが、DDCをhiFace Two Professionalにするとバッチリ安定してくれました。
    そもそもHP-A8を単なるDDCに使うのはもったいないですし、hiFaceのほうがジッターが少ないのかも。
    なお、DSDを同軸経由で入れてもほぼ無音の176.4kHzとして認識されるようで、DDC側の問題かもしれませんがDoPはうまくいかないようですから、Soundgenicに入れてあったDSD音源は事前にXLDで88.2kHzのPCMに変換しておきました。

    あとはオペアンプ見直しを待つばかりですが、その前にインシュレーターとしてRMF-1を投入してみたところ、グンと透明感が向上しました。
    これならばもうオペアンプ交換しないままでも良いのでは?というくらい変わって、ちょっとビックリです。
    全体としてもESSで勝手に想像していた「冷たくてやや平面的な音」ということはなく、ハイスピードでありつつも楽器の輪郭や細部によどみがないサウンドで、なかなか満足です。

    もうすっかりメイン機材の一部に食い込んでいますが、さらにオペアンプを補充したのでそこの変更は後日まとめてご紹介しようかと思っています。

    Filed under: Audio
    2021/12/26 12:30 pm | ES9018 DUAL MONO DAC はコメントを受け付けていません
  • 1612月

    KRELLのA級パワーアンプ「KSA-100」を導入してみました。

    唐突な追加のような感じですが、DENONのCDプレーヤー群を導入したあたりから少しずつ脱アキュフェーズを目指していて、今回もその一環ではあります。
    別にAccuphaseが嫌いになったというわけではなく、耐久性の面ではまだ安心感がありますし、むしろそれらが揃ったからこそ冒険もできるというものです。

    前置きはこのくらいにして、KSA-100は1980年の発売で、ちょうど私がオーディオを始めた頃の機種です。
    当時は高嶺の花過ぎて店頭で聴いたくらいですが、たしか定番のアポジーやMcIntoshのXRTシリーズあたりで試聴した記憶があります。
    言わずと知れたDan D’agostino氏の手掛けた名機で、クレルの最初のモデルでもあります。

    今回のはまず弟が店頭で見つけてくれて、EIコアトランスの初期モデルであること、そしてそれなりに整備済みであることを確認してくれたので、安心して入手することができました。
    この頃のKRELLは時期等によるバージョン違いがかなり色々あるらしく、今回のは150番台後半ですのでかなり初期のものだと思われます。
    製造番号が150番台前半だとフロントパネルの角が四角いのを見かけたので、最も初期のものではないですけどね。

    中のトランスやコンデンサ、トランジスタなどもそれぞれに異なるらしく、今回のものはMalloryのコンデンサ40,000μFが4本、トランジスタはなぜか丸K印の謎のメタルキャンが全て使われています。

    パワートランジスタはNECの2SB600/2SD555が付いているという情報がありましたので、そこから交換されたのでしょうか。
    ちなみにKSA-100 mk2ではモトローラの特注品に変更になっていて、さらにトロイダルトランスやドライバ段のFET採用、保護回路の追加などの変更がなされています。
    製品の信頼性は向上していると思われますが、こと音質面では初期のものの評価が高いみたいです。
    保護回路がほとんどなく、ヒューズ頼みなのはなかなか怖いところはありますけどね。
    なおDCオフセットだけは事前に確認したところ、電源投入直後で左右とも9mV程度と良好そうですし、残留ノイズもP-550より少ないくらいです。

    能書きはともかく、さきほどのメタルキャントランジスタ4パラで純A級100W、消費電力も常時610Wという大物です。
    重さの35kgはP-550(33kg)やP-600(38.3kg)で慣れていますし、前後にハンドルがあるので意外と扱いやすいですが、W483xH226xD612mmという大きさはなかなかデカいです。

    まずはKLH4につないでテスト運用してみました。
    保護回路がないので怖かったのもありますが、電源投入時のノイズは思ったより少なめで安心しました。
    電源をオフにしてもしばらくは鳴り続けるあたりはLINN LK140を思い出しました。
    ファンによる空冷を採用していて、ちょっとした空気清浄機やエアコンくらいの結構な音量ですが、パワーブロックの温度を75度~80度に保つ仕様ですから仕方ないところでしょう。

    KLH4ですら第一声から余裕のあるサウンドを叩き出してくれて、当時試聴した記憶がうっすらと蘇ります。
    弦の艶や熱量がすごく、ジャズ向きだと思っていましたが、クラシックでもライブ感がしっかりした音源なら全く問題ないどころか、むしろとても相性が良いようです。
    低域は適度にふくよかではありますが、そこまで甘過ぎず、ピアノの打弦にしっかりした重さが感じられるのが好印象です。
    総じて今まで使ってきたアンプの良いところ取りのような印象があり、A級アンプ独特の温度感と歪みのなさを保ちつつ、大出力の瞬発力、駆動力、その上で繊細な音楽的表現力も持ち合わせています。

    そこで本格的にB&W Matrix 802 S2に接続変更しました。
    これまでのP-550とほぼ同じケーブル類ですが、入力だけXLRがなくてRCAのみなので、ここは一旦、長尺の安いケーブルにしてあります。
    こちらも第一声、ある意味気負った感覚が一切なく、それでいて場の空気を熱量を持って生の緊張感とリラックス感の双方を再現してくれます。
    楽器それぞれがとても生々しく、音の消え際がとても素晴らしいのが印象的です。
    余韻が残り過ぎず、しかも美しいためか、弦楽器のライブ感と音色の自然さがこれまでと段違いに感じられます。
    一言で言えば潤いのある音とでも言えるのでしょうが、試聴していてもあまり細部に耳が行くことなく、とにかく通しで音楽を楽しんでしまいます。

    ウォームアップにはそれなりに時間がかかるようで、マニュアルにも15分という記載があります。
    実際には最低でも10分、本来は30分くらいはウォームアップしたい感じで、そこからより透明感とキレが良くなっていきます。

    これまでのAccuphase P-550でたびたび感じられたギスギス感が皆無になりました。
    このアンプもその前に使っていたA-45と比べてもまだまだ現代的なアンプではないですけれども、それでも光沢ありすぎなデジタルプリントから銀塩写真になったようなイメージの変化がありました。
    KSA-100のほうがむしろ現代的なサウンドとは趣を異にするものなのでしょうが、やはり物理的投入量に伴うものなのか、エネルギー感がハンパないです。
    喩えたほうがかえって分かりづらいかもしれませんが、カセットテープとオープンリール、35mmフィルムと中判フィルムのような土俵の違いすら感じてしまいます。

    とりわけ、フルオーケストラでは規模感がダントツ違っています。
    低音がよりしっかり出ているとかもあるのでしょうけれど、そういうレベルではなく、物理的パワーをもってフルサイズで再現してくるような印象です。
    ただ迫力で押してくるだけでなく、オーケストラ一人一人がその場に浮き立つように再現されてきて、楽器が音楽的な範囲内で混沌としすぎず、かといって分析的に下手に高分解能過ぎないのも好印象です。

    その後はもういろんなジャンルのディスクをひたすら聴き直しています。
    ボーカルもとても生々しく、位相が乱れていないからか、伴奏の強弱を伴っても一向にブレがありません。
    ジャズやフュージョンでは勝手に身体がリズムを刻んでしまうあたり、まさに初期クレルの評判通りです。
    アキュフェーズの時はジャズはどうしても解析的になってしまい、swing感がいまひとつだったのです。
    これはあくまでも推測に過ぎませんが、近年のオペアンプ多用も一因なのかもしれません。
    そうした講釈は無視するにしても、とにかくライブの熱量再現が凄まじく、ちょっと喩えが過ぎるかもしれませんが、アンプというより動力源のようです。
    分かりやすく言うとすれば、肺活量が大きくなったような感覚で、ffへの瞬発力がすごく、それが持続して息継ぎがないような感じがします。

    レコードでは最初、低域の緩さが少し感じられたのですが、それはむしろカートリッジのウォーミングアップに起因するものだったのに気づきました。
    そういう他のオーディオ的な要素にも意外と敏感で、決して音楽的にすることを意識して作り込まれた音ではなく、ハイファイ志向もしっかりあります。
    ハイスピードな楽曲よりもスケール感のあるもののほうが合いそうではありますが、音が絡みつかず、しっかり楽器が分離していて、しかも(たとえ電子楽器であっても)オーディオにありがちな人工的な音色がしないのがこれまでとの最も大きな変化でしょう。
    これまでだと他の楽器と重なると微妙に抜けが悪くなったり、音色が人工的になり、定位があやふやになることがあったのですが、それが皆無になり、常に堂々と骨太にそこに存在するようになりました。

    逆に高音質だと思っていた音源がそれほどでもなかったりすることはあって、全体的には演奏の質が高いものやライブ感の強い音源のほうが引き立つ傾向がありそうです。
    ピアノも実体のサイズがしっかり見えるようになり、弦の張りが強くなったような印象を受けます。
    パルシブさが強烈になりましたが、高域がキツいのとはまた違うのですよね。
    むしろKSA-100をじっくり聴いたことで、アキュフェーズが良く「スカキン」などと言われるのも納得した部分があったりしました。

    いろいろ褒めちぎっていますが、空冷ファンのノイズとか、ハンパない放熱など、課題もないわけではありません。
    ただ、そうしたマイナス面をさておいても愛したくなる魅力を持ったパワーアンプだなというのが率直な感想です。

    Filed under: Audio
    2021/12/16 4:00 pm | KRELL KSA-100 はコメントを受け付けていません